キス、涙々。
「げ、八尾ましろだ」
通りすぎるとき、ぼそっと嫌そうにつぶやかれるのが聞こえた。
フルネーム。しかも敵意のたっぷりこもった呼び捨て。
話しかけられるどころか。
つくづくわたしは嫌われている。
嫌がらせされていないのが不思議なくらいに。
「……」
離れたところまで歩いて、ふりかえる。
もうすでに、わたしなんかに興味をなくした女の子たちは4,5人で楽しそうに笑っていた。
「……いいなぁ」
どこに向けていいのかもわからない言葉は、誰に届くでもなく。
すぐに、彼女たちの笑い声にかき消されたのだった。