キス、涙々。
「ねえ、なんで泣いてんの」
「泣いてないよ」
「そうだね。なんで泣きかけてんの?」
「……ハギくんの人使いが荒いから」
「そりゃ申し訳ないね」
本当はちがうんだけど、追求されてもうまく答えられる自信はないからささやかな嘘をつく。
道草の食べ方も知らないわたしは、すぐに文系コースの教室にたどり着くことができた。
今度こそ教室にいたハギくんが、入り口まできてくれて。
いまこうしてわたしの顔をじいっとのぞいている。
「な、なに……?」
「……どこのどいつが」
「え?」
「いや、なんでもない。やっぱりヤオの泣き顔は滾るね」
普通の人は泣き顔を見てたぎるなんて言わない。
それに、当たり前だけどネクタイをしていないハギくんはまたしても規定以上にシャツのボタンを開けていた。
本当に、言っても言っても……
わたし、制服は着崩さない人のほうが好きだよ。
なんて。そんなどうでもいい情報、言ったところで「だから?」って返されるだろうけど。