キス、涙々。


「ハギくん」

袖をちょいちょい引っぱる。


「あ、そうだよね。そろそろ行こうか!ふたりきりになれるとこ」



こくりと頷いたらハギくんが変な顔をした。

捕まえていたはずのネズミがいなくなっていたときのネコの顔だ、これ。



「どうしたの?」

「や、てっきり…どこに?とか指導が、とか言うと思って」

「し、指導なら……ふたりのときにでもできるでしょ?」



たぶんわたしは真っ赤っか。

それでも泣いていないのだから自分を褒めてあげたい。



「はぁー……」


片手で顔をおさえたハギくんは、どんな表情をしているのかわからない。

だけどその耳は、すこしだけ赤く染まっているように見えた。



「いろいろ忙しくて、ゆっくり話せなかったから……わたし、ハギくんに言いたいことあるの。聞いてくれる?」


「……俺もあるよ。ずっと、言いたかったこと」



手を差し出され、わたしは自分の手を重ねる。


自分の気持ちにもう嘘はつけなかった。





















「見にいく?見にいく?うほほ」

「無粋なことすんな。そしてジャングルに帰れ」

「加賀屋は心配じゃないわけ?」

「心配?はっ、んなもん。あのふたりにとって一番必要ねーものだろ」

「あんたたまにはいいことも言うのね。見直したわ」

「俺はお前のほうが心配だね」

「……え?」



「次の定期試験。2番手から抜け出す算段はついてるんですかね」

「はっはははは。テストの前日、貴様のメシに下剤盛ってやろうか」



< 246 / 253 >

この作品をシェア

pagetop