キス、涙々。
「ハギくん」
袖をちょいちょい引っぱる。
「あ、そうだよね。そろそろ行こうか!ふたりきりになれるとこ」
こくりと頷いたらハギくんが変な顔をした。
捕まえていたはずのネズミがいなくなっていたときのネコの顔だ、これ。
「どうしたの?」
「や、てっきり…どこに?とか指導が、とか言うと思って」
「し、指導なら……ふたりのときにでもできるでしょ?」
たぶんわたしは真っ赤っか。
それでも泣いていないのだから自分を褒めてあげたい。
「はぁー……」
片手で顔をおさえたハギくんは、どんな表情をしているのかわからない。
だけどその耳は、すこしだけ赤く染まっているように見えた。
「いろいろ忙しくて、ゆっくり話せなかったから……わたし、ハギくんに言いたいことあるの。聞いてくれる?」
「……俺もあるよ。ずっと、言いたかったこと」
手を差し出され、わたしは自分の手を重ねる。
自分の気持ちにもう嘘はつけなかった。
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「見にいく?見にいく?うほほ」
「無粋なことすんな。そしてジャングルに帰れ」
「加賀屋は心配じゃないわけ?」
「心配?はっ、んなもん。あのふたりにとって一番必要ねーものだろ」
「あんたたまにはいいことも言うのね。見直したわ」
「俺はお前のほうが心配だね」
「……え?」
「次の定期試験。2番手から抜け出す算段はついてるんですかね」
「はっはははは。テストの前日、貴様のメシに下剤盛ってやろうか」