キス、涙々。




入ったのはいつかの空き教室だった。


誰もいない正門を見おろしていたら、後ろから名前を呼ばれる。


それでも振り向かずにいられたら髪を一房すくわれた。



「なんでこっち向いてくれないの」

「は、恥ずかしいから……」

「恥ずかしいって、なんで」

「うう……ハギくんの意地悪」



ふたりきりで話すのはほんとうにいつぶりだろう。

どんなふうに会話していたのか、忘れてしまいそうになる。



「そういえば、ヤオ」


対してハギくんはいたって普通で、その差がなんだか悔しかった。



「なに?」

「俺さ、大学進むことにした」

「え、嘘!」


まさかの言葉に振りかえると、やっとこっち見てくれたとハギくんはわたしの髪にキスを落とした。


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