キス、涙々。
ヘンなことを考えないように、と素数をかぞえる準備をしていたけどその必要はなかった。
あまりに距離が近すぎてハギくんの顔が視界に入らないから。
じっとつむじを見られている気配はするけど、これならまだ我慢できる。
ゆるゆるな涙腺も、これはどうやらセーフと判断したようだった。
「ええと、ここをこうして」
わたしだって風紀委員の端くれだ。
腐っても風紀委員。
だから、いくら女子がリボンだからってネクタイを結ぶことくらい訳ないはずだった。
「……んん?」
それなのに全然うまくいかない。
ハギくんの首にかかるネクタイを、さっきから結んだり外したりのくり返し。
「ええ、なんでだろ……」
手順はしっかり覚えていたはずなのに、なぜか最後までたどり着けなかった。