キス、涙々。


とつぜん落ちてきた低い声。

気づけばとなりに加賀屋くんがいた。


女の子の耳にあった絆創膏を、なんの躊躇もなくぺりっと剥がす。




「げっ、春馬じゃん」

「げ、じゃねえっての。やっぱりピアス開けてんじゃねーか」

「えー、もお、強引すぎぃ」



絆創膏の下にあったのは、やっぱり火傷ではなくピアスの穴。

女の子は無理やり剥がされたというのに、すこしも怒るそぶりを見せなかった。

むしろ加賀屋くんの姿を捉えた途端、どこか嬉しそうにしている。




「でも見て、これ安定してない?塞ぐのもったいないと思わない?」

「思わない」

「即答じゃーん!ね、八尾さんはあたしの味方だよねぇ?」

「うまく言いくるめようとすんな」



バインダーで頭をぺこんと叩かれた女子生徒は、そのあと笑顔で校舎へと入っていった。




「加賀屋くん。あの、ありがとう」

「お前もしっかりしろよ」


用紙に記入をしていた加賀屋くんは、そう言い残して離れていった。

また遠くで男子生徒の指導を再開している。



“見てて腹がたつ”

まるでそう言われたような気持ちになった。



< 48 / 253 >

この作品をシェア

pagetop