キス、涙々。
とつぜん落ちてきた低い声。
気づけばとなりに加賀屋くんがいた。
女の子の耳にあった絆創膏を、なんの躊躇もなくぺりっと剥がす。
「げっ、春馬じゃん」
「げ、じゃねえっての。やっぱりピアス開けてんじゃねーか」
「えー、もお、強引すぎぃ」
絆創膏の下にあったのは、やっぱり火傷ではなくピアスの穴。
女の子は無理やり剥がされたというのに、すこしも怒るそぶりを見せなかった。
むしろ加賀屋くんの姿を捉えた途端、どこか嬉しそうにしている。
「でも見て、これ安定してない?塞ぐのもったいないと思わない?」
「思わない」
「即答じゃーん!ね、八尾さんはあたしの味方だよねぇ?」
「うまく言いくるめようとすんな」
バインダーで頭をぺこんと叩かれた女子生徒は、そのあと笑顔で校舎へと入っていった。
「加賀屋くん。あの、ありがとう」
「お前もしっかりしろよ」
用紙に記入をしていた加賀屋くんは、そう言い残して離れていった。
また遠くで男子生徒の指導を再開している。
“見てて腹がたつ”
まるでそう言われたような気持ちになった。