キス、涙々。


そのあとも指導はつづき、ようやく人の波も落ち着いてきた。

このぐらいの時間帯になったらあとは遅刻してくる人くらいかな。


とはいえすることもないから、記入漏れを確認していたときだった。


ふっ、と用紙にかげが落ちる。

不思議に思って顔をあげると、そこには加賀屋くんが立っていた。



え、なんで?


ぎょっとして、どきっとして、さっと血の気が引いた。



そんなわたしの三変化に気づくこともなく、加賀屋くんは話しかけてくる。




「今日いつもより寒いけど、カーディガンなしでもいけんの」

「えう、うん。さ、寒いよね。着てくるの忘れちゃったんだ」

「忘れた?そりゃやらかしたな」

「だよね、うん。……うん」



どうしよう。

自分でもなにを言ってるかわからない。


うん、しか言えてない気がする。


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