キス、涙々。
「おい待て。なんで泣く」
「え、で、出てる?」
「滝のように出てるよ。自覚ないのかそれ」
「……わたしてっきり、加賀屋くんに嫌われてるかと思ってた」
「はあ?俺があんたを?」
からん、と。
なにかかたいものが地面に落ちる、乾いた音が耳に届いた。
それでも地面にはなにもなくて、きっとわたしの心に刺さっていたものなんだと思う。
ここにあったナイフが、なんの拍子かぽろっと抜け落ちたようで。
「別にあんたのことは嫌いじゃねーよ。好きでもないけど」
「ありがとう」
「……でも、まあ」
それまで孫悟空の緊箍児のような役割をしていた指が、すっと離れていった。
かわりに、目の横に手を添えられる。
溢れるものを掬うみたいに。
「いつもこうやって上向いてんのは、いいと思う」