キス、涙々。
ぱちぱちと瞬きをするたびに、加賀屋くんがぼやけて、クリアになってをくり返す。
彼のことをこわく思う気持ちは、もう消え去っていた。
「……加賀屋くんって、」
と。
涙を流したまま、言おうとしたときだった。
顔に寄せられていた加賀屋くんの手を、誰かがつかんだのは。
そこにいたのはハギくんだった。
わたしのことを見るなり、「おはようヤオ」って、いつもみたいにのんびりとした挨拶をされる。
それに返事をすることはできなかった。
いつだってマイペース、どんなときだって笑顔を絶やさないハギくんが。
このときは全く笑ってなかったから。
「……で、お取り込み中悪いんだけど」
その不自然なくらい平坦な声に、びくりと肩を揺らしてしまう。
でもハギくんはもうわたしを見ていなくて。
いままでに見たことのないような据わった目を、加賀屋くんに向けていた。
「お前が泣かしたの?」
「かもな。よくわかんねーけど」
いくらわたしの察しが悪かろうと、この状況は察せざるをえなかった。
まさに一触即発。
美晴ちゃんたすけて。
空気を読まないわたしの涙だけが、ぽろぽろ、地面に雨をふらせていた。