キス、涙々。


そのとき、ひゅう、とつめたい風が一瞬だけ吹いてくれたことには正直助かった。




「……今日、ね。じつはカーディガン着てくるの忘れて、それで寒くて」



どうだろう。

自分で言うのもなんだけど、それっぽい理由になったのでは?


わたしはドライアイでもあるから、風のせいで最初から目が潤んでいたのも事実。



「ね?ほら、生理的なやつだよ。これ」



この場を和ませようとまでは思っていない。

だけど、険悪な雰囲気をすこしは軟化させたくてニコニコと笑顔をつくる。




「あはは、わたしたち押しくらまんじゅうしてるみたいだね。ペンギンみたーい……はは、」




加賀屋くんが、バカなのか?って顔をした。

ハギくんも呆れたように肩をすくめて。


わたしもさすがにこれはキツいと思った。



それでも多少は空気を変えることができたのか、ハギくんはやっと加賀屋くんから手を離した。


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