キス、涙々。
それに、
「なんだか初めてじゃないような気がするの」
「え……」
“お前が泣かしたの?”
“あ?もっかい言ってみろよ”
うっすらと靄がかかったようだったけれど、どこかで聞きおぼえがあった。
思い出せそうで思い出せない。
すうっと据わった黒い瞳に、なんの感情もない平坦な声。
たしか、どこかで……
「……あーっ!」
「……」
「わかった。ハギくんって、あのときの子でしょ!」
そうだよ。思い出した。
あのときの記憶がふつふつとよみがえってくる。
忘れもしない幼稚園のとき。
幼稚園でも友達がいなかったから、近所にある公園でひとり遊びするのが日常だったんだけど。
そのときわたしの前に現れたのが、ちょうどハギくんのような見た目をした男の子だった。
ハギくんがふっと笑う。
その目からは、なぜか優しさや温かさに似たものを感じた。
「やっと気づいた?
そうだよ、俺があのときの────」
「むかし砂場でおもちゃの取り合いした子だよね!?」
「ふっ、くく」
「笑うな加賀屋」
空を仰ぐように右手で顔を隠した加賀屋くんを、ハギくんがげしっと蹴った。