キス、涙々。
「……そうじゃないんだけど。まあ、どっちにしろ人違いだよ」
「そっか、人違いかぁ」
「うん。それにヤオと俺がはじめて出会ったのは高校だからね」
「え、そうなの?」
それじゃあやっぱり、わたしの思い過ごしなのかもしれない。
だって高校生になってまだ2年と半年だし、そんな簡単に忘れるわけない。
違う人と混ざっちゃってたのかな。
「幼いころに約束を交わした男の子かも、なんて期待した?」
「あは、そうだったら運命だね」
「誰かとそういう約束したことあるの?」
「ううん、ないけど。でもロマンチックだなとは思うよ」
そこまで言って、手元のバインダーに目を落とす。おしゃべりもいいけど、委員の仕事も忘れちゃいけない。
ハギくんの名前を書いてから服装指導をしようとしたけど、加賀屋くんに止められた。
「もう俺のほうに名前書いてるから」
「あ、ごめんね。ありがとう加賀屋くん」
「普通は同性同士でやるんだけどな」
それはわたしというより、どうやらハギくんに向けた言葉だったらしく。
そのことに気づいたハギくんはくすりと笑って首をすこし傾けた。