キス、涙々。
「俺のこと好きなの?」
「あー好きだよ。だからこっち来い狂犬」
「狂ったら真っ先に噛んでやるね、お前のこと」
そんな会話をくり広げながらふたりは服装指導をはじめた。
加賀屋くんの言葉にどこか違和感をおぼえる。
ハギくんを表すのに、”狂犬”はすこし違うように思えたから。
ちょうどそのとき、正門からこっそりと強行突破をしようとしている遅刻者を見つけたので、わたしも彼女の指導にいくことにした。
「じゃあわたしいくね。あ、あんまり喧嘩しないでね……?」
「八尾」
呼び止められて振りかえると、加賀屋くんがこちらを見ていた。
「さっき、なんか言おうとしてたよな。あれ何?」
「え?……ああ、」
ハギくんがくる直前、ほおを包んでくれた大きな手。
その場所に触れて思い出しながら、えへへと笑った。
「加賀屋くん、手、あったかいねって」
急がなきゃ。
こっちに気づいて駆け足で校舎に入ろうとしている女子生徒をひっしで追う。