キス、涙々。
「猫かフローズン、どっち吸いたい?」
「なにその二択。ウケるんだけど」
前の席で盛り上がっている仲良し同士のクラスメイト。
なにやら興味のそそられる会話だったから、教科書をつめる手をゆっくりめに変更する。
「怪しー。いったいどういう魂胆よ?」
「ひどーい。ほら、あんた最近おつかれ気味じゃん?たまには気分転換しなきゃ身体に毒よーってね」
「あーね。そりゃうれしいわ」
「で、どっち行く?」
「猫でしょ猫。吸いにいくぞ猫!」
「よしきたー!吸うぞ吸うぞー!」
行き先がきまったようで、ふたりは楽しそうに会話をしながら出ていった。
いいな。……いいなあ。
楽しそうだな。
ふたりの会話に感化されて、どこかに寄り道したい欲が高まってしまう。
それでも、やっぱりだめ。
ひとりでお店に入る勇気も、誰かを誘う勇気も両方ない。
そんなわたしにお似合いなのは……
「あ、しまった。出し忘れてた」
机の中に入っていた、一枚の紙。
わたしにお似合いなのは委員の仕事だけ。
誇れるものはもはや、それしかなかった。