キス、涙々。

ハギ、耐える





朝、いつもの場所にヤオがいないから、まさかと思った。


そのまさかは当たっていて、同じ風紀委員に聞いてみたらすぐに教えてくれた。



「ああ、八尾さん?今日は休みだよ。昨日寒かったからね、風邪引いちゃったみたい」



……昨日のが祟ったか。


いくらカーディガンを貸していたとはいえ、やはり熱っぽかったヤオを引き留めるべきじゃなかった。

たぶん、いや絶対風邪を引いたのは俺のせい。



「あーあ、悪いことした」

「え?」


俺のひとりごとを拾った男子委員が聞き返してきた。


時間ぎりぎりであっても、まだそれなりに登校してくる生徒もいる。


いつまでも突っ立っていたら邪魔だろう、と。


横を通り過ぎようとしたら男子委員に引き留められ、



「あ、待って萩くん。服装指導を……いや、うん、大丈夫です。ピアスだけ外してね」

「え?」

「あ、うん、ピアスをね、外してくれるかな……」

「……ああ」


ぼうっとしていて、反応するのも怠かった。


耳に触れたらすこしだけ痛む。

そういえば昨日、新しく開けたんだっけ。


もはや息をするように穴を開けまくっている。


『親からもらった身体に穴を開けるなんて!』と言ってくるような人も、俺にはいない。


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