キス、涙々。


とにかく、さっき整えたばかりのベッドに降ろそうとした……んだけど。

何度声をかけても、軽く揺さぶってみても無駄だった。


それどころか、いやいやをする子どものようにもっと抱きついてくる。


風邪を引いたら甘えたになる、とか。

典型的なことすんのやめてもらえますかね。




「大丈夫、まだ、だいじょうぶ……大丈夫」


肩のところに顔をうずめ、ときおり呪文のように繰り返すヤオは。

まるで自分に言い聞かせているようだった。


その姿をみて、どこか懐かしく感じる。



「……あんまりしないほうがいいよ、それ。自分の限界に気づけなくなるから」


壊れて、やっと気づきました、でももう手遅れです、なんてことにはならないようにね。

まあ、耳に届いてすらないんだろうけど。




「いい?ゆっくり降ろすよ」


ぎし、とスプリングが軋む。


俺がベッドに手をついて前屈みになれば、さすがにヤオも腕をゆるめる。


そのまま重力に負けてボトンと落ちないように、腰に腕を回して支えた。



時間をかけてベッドに戻っていったヤオに布団をかける。


するとすぐに「暑い」と言って布団をはねのけようとしたから、エアコンのリモコンを探して暖房を切れば、ようやく落ち着いたのか大人しくなった。


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