キス、涙々。
「っ……だから、お母さんじゃねーっての」
言いたいことだけ言って寝やがった。
ていうか、いまのは自分に言ったわけじゃない。
それなのにこうも都合よく反応してしまう俺はどうなんだ。
すうすうと比較的安らかな寝息を立てるヤオはもう夢の中だろう。
上から押さえられていたヤオの手が離れても、俺はその頬から手をのけなかった。
たぶん……甘えたというよりは、普段隠している本心なんだろうな。
それが風邪によって露見した。
さらりとした色素の薄いのれんを手でよける。
さんざん煽られたんだし、キスの一つや二つくらいしてもいっか。いいよね? するよ。
そう思って、浮かせた腰を……静かに下ろす。
「……やーめた」
さすがに寝込みを襲うのはフェアじゃない。
それに、いまはこの寝顔を独り占めしているだけで充分だった。
……なんて。
自分の心も騙さなきゃいけないような本心が、奥に眠っていることには気づいてる。
でも、もう少しだけ知らないフリをさせてほしい。
あいつの言うとおり、俺は臆病者だ。
それに加え、面倒な性格だとも自負している。