キス、涙々。
ヤオ、とかすれる声で呼びかける。
出会う前のヤオがどんな子だったかも、どんな生活を送ってたのかも知らないけどさ────
「よくやってると思うよ、ヤオは。頑張ってる」
何様だ、と。
いまのヤオなら寝言でも怖じ気づくことなく返してきそうで。
小さく笑って、もう一度その髪をやさしく撫でた。
翌日、生徒会長からすべてを聞かされたヤオが慌てふためいて「全然気がつかなかった。どこからがお母さんで、どこからがハギくん?」と詰め寄ってきたんだけど。
最初から最後まで自分だった、ということは面白いから言わないでおいた。
せいぜいしばらくの間……いや、今日だけでもいい。
「俺のことで頭悩ませなよ? ましろちゃん」
「言わずもがな、いつも悩ませられてるよ」
遅刻寸前の朝。
あいかわらず違反だらけの俺に、ヤオは頭を痛めるように眉間を揉んだのだった。