箱崎桃にはヒミツがある




 そんなどっと疲れた朝。

 箱崎桃の一日は、一杯の白湯(さゆ)から始まる。

 ……苦手なんだが、白湯。

 朝、ぬるい白湯を飲むと、身体が目覚めて、代謝もよくなると言うしな。

 桃は一度沸騰させた白湯を白い陶器のカップに注ぎ、冷めるのを待っていた。

 なんで、珈琲や紅茶じゃいけないんだろうな。

 あったかい飲み物というだけなら、紅茶とかでもいい気がするが。

 やっぱ、カフェインとか余計なものが入ってないのがいいんだろうな~、と思いながら、ぼんやりカップに入った白湯を眺めていた。

 早く冷めないかな~。

 もっと広い器に入れたら冷めやすいよな。

 大きな平皿に入れてみたら、どうだろう?

 いやいや、それだと持ち上げたとき、こぼれるか。

 だからって、顔突っ込んで飲むわけにも……。

 桃は自分がその平皿に顔を突っ込み、白湯を飲むところを想像してみた。

 猫か。

 ははは、とひとりで笑う。

 家具の少ないガランとした部屋に、その笑い声がむなしく響いた。
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