千歌夏様‥あなたにだけです。〜専属執事のタロくん〜
千歌夏様‥これが嫉妬というものです。
「えーでは、D組では、委員長に波瀬、副委員長に平岡‥書記が北條と入江に決まりました‥。」

何だかわからないまま‥役を押し付けられた感じだな‥。
二つ隣の千歌夏様を見ると正に顔面蒼白だった。

「千歌夏‥さ‥北條‥大丈夫?」

危ない‥千歌夏様は、禁止だった。
千歌夏も、名前呼びは周りから詮索されるからダメだと言われ‥結局‥学校では名字で呼び合う事になったのだ‥。
と言うか‥俺はこの事に些か不満がある。
そもそも初日に千歌夏様とお呼びしてしまった時点で、俺と千歌夏が只ならない関係だとバレてしまったのだから、今更遅いと思う。
千歌夏様は、天然無垢な方なので‥周りにバレている事に気づいていないからなんだろう‥。
鋭いのか鈍いのか‥それが千歌夏様の良い所でもあるが‥とにかく‥あれから学校では、遠縁の親戚として俺と千歌夏様は振る舞っているのである。

「あれ‥北條さん?」

隣の入江悠一が焦ったような声で千歌夏様を呼ぶ。

えっ?!

バターンっっ

俺が気づいた時にはすでに千歌夏様は床に倒れていた。

「千歌夏‥っっ‥あ、北條っっ!」

そう言って千歌夏様を抱きかかえようとした瞬間‥

ガシッ

え‥

俺より早く入江が彼女を抱きかかえていた。

「先生!保健室に連れて行きます!」

スッッ

俺の横を颯爽と通り過ぎていく‥

「まっっ‥」

額に冷たい汗が流れていくのがわかった。
その一瞬の光景に‥
教室はざわめく‥。

「入江くん、カッコイイ〜」

「氷のお嬢様を溶かすのは‥入江かぁ?」

「でも‥やっぱ北條は別格だな‥ 
近寄り難さといい‥あのオーラ‥
儚いお嬢様が似合うよなぁ‥」

「俺‥これを機会に話かけてみようかな‥」

「あなたたちさぁ、初等部から北條さんにずっと悪ふざけして困らせてたわよね?
今更よくそんな事‥
‥嫌われてるから諦めなさいっっ‥」

「や、だって‥北條がいけないんだっ!
‥俺らをいつも無視するんだぜ?
だから‥なんかさぁ‥泣かせてやろうと思って‥
あいつ‥すぐ泣くんだもんっっ‥でも‥その泣き顔が‥」

「はぁ?あんた達、最低‥
‥わざと泣かせて楽しんでたわけ?」

「してねーよ!
いつも顔色一つ変えない冷血令嬢‥
全然かわいくねーし、好みじゃねーからっ!」

スッッ

‥‥‥‥‥‥お前らだったのか‥

「え、な‥何だよ‥波瀬‥」

「いいものあげるから手を出して‥」

「え‥何だよ?」

ソッ

「うわっっっっ!何だよ‥これ‥

虫の死骸‥波瀬‥どういうつもりだよっっ!」

‥‥‥‥この‥虫けら共が‥
千歌夏様への無礼な態度‥許さないからな‥

ニッコリ‥

「今まで‥北條を傷つけた分のお礼だよ。
もしまた、何か傷つけたら‥
今度は、立ち直れないくらいの‥
もっと凄いのをあげるよ。」

「はぁ‥?!」

ニッコリ‥

「‥‥‥‥‥‥‥」

「わかったよ‥しないよ。」

俺が笑いながら睨みつけると
彼らは察したのかおとなしくなる‥。
俺の冷酷な笑顔を見ておとなしくならない奴はいない。
何をするかわからない血が通っていないような表情‥
彼女に出会う前の俺はいつもこんなんだった。

「みなさん‥聞いて下さい‥。
北條さんは体調悪いようで、いません。
‥入江くんも付き添ってくれたのでいません。
決まってそうそうアクシデントはありましたが、僕と平岡さん、そして北條さん入江くんの4名で今年度のクラス委員を務めさせて頂きます。よろしくお願いします。」

一斉に拍手が沸き起こる‥
本当は、委員なんてどうでもいい‥。
だけど、千歌夏様がクラスに馴染めるきっかけになるのなら‥力になりたい。
千歌夏様の為になるのなら‥。

「では、これからの日程と、夏の文化祭について話し合いたいと思います‥」

委員長として話し合いをそつなくこなしていく一方で千歌夏様が気になって仕方ない‥。
早く終わらそう‥。

千歌夏様‥
すぐにお守りできず‥
申し訳ございません。

千歌夏様‥心配です。千歌夏様‥泣いてないですか?

さっきの光景が何度もフラッシュバックしていく‥



入江悠一‥

ドクン‥

胸がザワザワしていて落ち着かない‥。

ドクン‥

頭から離れない‥。

ドクン‥

俺の中の黒い欲望が顔を出しそうになる。

天使に憧れた悪魔‥。
どんなに憧れようとも‥
彼女の世界にはいけない。

グラグラ‥

悪魔の俺が‥
顔を出しそうになる。

ドクン‥

ドクン‥


この感情が何なのか‥
俺は知っていた。


千歌夏様‥
あなたには、きっとわからないでしょう。

純真で無垢な‥天使の様に清らかなあなたには。

私は‥罪深いです。
あなたを誰にも渡したくないのです。
渡したくないのです。

私は‥あの時‥
激しく動揺していました。

そうです‥
‥私はあの入江に嫉妬心を抱きました。

千歌夏様‥
これが嫉妬というものです。




















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