千歌夏様‥あなたにだけです。〜専属執事のタロくん〜
「じゃあ‥俺‥行くから、お大事に‥」

入江くんは、私にそう言うと出ていってしまった。

「‥あ、ありがとう‥」

私も彼の背中にそう言い‥タロくんを見る。
入江くんが出ていくとタロくんは、私に最敬礼のお辞儀をする。

「タロくん?」

「千歌夏様‥申し訳ありません。私がついていながら‥こんな事に‥しかもお世話もできませんで‥」

タロくんは、ずっとお辞儀をしたままだ。

「タロくん‥大丈夫だから‥私こそ‥急に倒れたりしてごめんなさい‥。でも、入江くんが色々してくれて‥鼻血も止血してくれたし‥」 

「鼻血っっ?!」

「千歌夏様‥見せてくださいっっ!」

「‥えっ」

タロくんが私の顔をマジマジと観察している。

ち、近いわ‥
恥ずかしい‥

「‥タロくん大丈夫だから‥それより入江くんのハンカチを汚してしまったの‥新しいハンカチを渡した方がいいわよね?」

私の言葉にようやくいつものタロくんに戻った。

「そうですね‥では、ご用意しておきます。」

タロくんの爽やかな笑顔にホッとする。

「ねぇ‥タロくん‥」

「はい、なんでしょうか?」

「私の泣き顔って‥その‥」

「えっ?」

私の言葉にタロくんが珍しく驚いた顔をしている。

「私の‥泣き顔‥やっぱり酷いわよね?」

タロくんの表情が少し硬くなった様な気がする。

「‥‥‥‥‥‥なぜ、そのような事を?」

「入江くんの前で泣いてしまったの‥そしたら‥
他の男子の前で泣かない方がいいって‥」

「‥それで‥?」

「‥それで‥入江くんの前ならいいって‥
これって‥何なのかしら?」

ギシッ‥

タロくんが私のベッドの方に近づいて腰掛ける。

「‥他に何かありましたか?」

タロくんが私の顔をジッとのぞきこんでくる。
タロくん‥近い‥
それに何か‥怒ってる?
いつもと何だか‥違うわ‥

他に‥押し倒されたとか?

「‥え‥ないわよっ!」

「でも‥私の泣き顔が変だから気を遣ってくれただけよ。」

「本当に‥おわかりになりませんか?」

「‥え‥?」

「他に何か言われなかったですか?」

「‥後‥私の笑顔は、天使みたいだとか‥
かわいい‥だとか‥入江くんは、少しかわっているみたいだわ‥」

私の言葉を黙って聞いていたタロくんが急に笑顔になっていく。

「そうですか‥」

「うん‥やっぱり入江くんはおかしいのよね?」

「さて、どうでしょうか‥。
また私からも千歌夏様をからかわぬ様にご説明しておきます。」

「‥うん、そうね‥でも‥あまり変な事は言わないでね‥あくまで、私と仲の良いクラスメイトとして言ってよ?」

タロくんは顔色一つ変えずに私の話を聞いていた。

「でも‥入江くんいい人だったわ‥彼となら‥」 

「‥はい?」

「友達になれるかもしれないわ」

「‥‥‥」

‥タロくんは私に背を向けてドアまで歩いて行く。

「‥‥‥‥‥‥‥タロくん?‥‥‥‥‥‥」

「すみません‥千歌夏様‥所用を思い出しまして‥
後でまたご様子を見に参りますね。」

「‥うん‥わかったわ」

そう言ってタロくんは出ていった。

「タロくん‥何の用なのかしら?」

この時‥
私の言葉にタロくんがどれ程の痛みを感じていたのか‥
私は知らない‥。

私はタロくんの受けた痛みと同じ生まれて初めて‥
激しい嫉妬心を抱く事になるのだ。

まさにそれが‥
千歌夏様‥
これが嫉妬というものです。



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