千歌夏様‥あなたにだけです。〜専属執事のタロくん〜

私は…生まれてからずっとずっと、誰にも愛された記憶がないわ…
お父様、お母様…お兄様達…誰にも愛されなかった。愛してほしかった…
そう言いたかった…でも言うことはできなかった。
だからね…タロくんが何かを言いたいのを言えずにいるのがわかる…。

「でもね、タロくん。これだけは言わせて…
私ね…タロくんがいてくれて本当によかったと思ってるわ…タロくんは、私の父、母、兄弟…そして友達…すべての役をしてくれた。タロくんがいたから、私は生きていられた…タロくんは、大切な人なの。だからね…嫌われたら私…生きていけないわ…」

本当は…あなたに愛されたい…。
そう言いいたいけれど…でも…執事の彼にこんな事を求めてはいけない。そう思うと涙がとめどなく溢れてくる…
その瞬間…
タロくんが私の手をギュッッ…と、握りしめ自分の口に持っていく。
…タロくん？

「…お嬢様…お話したい事があります。少しお時間よろしいでしょうか…」

「…え、ええ…でも授業は…」

そう言いかけた時…

「キャッ」

タロくんは、急に私をお姫様抱っこして廊下を歩いていた。その顔を見上げると…

え…………

そこにはいつもの完璧な執事の顔をしたタロくんはいなかった。