呪イノ少女、鬼ノ少女
「あ…あの、やむを得ない状況というのは？」

「ん…」


九音は一瞬躊躇いの色を見せ、澪と雛子を見比べた。

雛子を案じて躊躇した訳ではない。

九音は、それほど優しくは出来ていない。

ただこの先を聞けば、また澪が心を痛める、それだけの事である。


そうしてようやく、話す事を決めた九音だったが、それよりも一拍早く立ち尽くしていた雛子が口を開いた。


「お母さんを………助ける為です」


雛子は顔面を蒼白にし、消え入るようなか細く掠れた声で告げた。


あれは、一寸先も全く見えない激しく、雷鳴轟く雨の日のこと。

買い物帰りの雛子達に、信号無視をした一台の車が突っ込んで来たのだ。

そしてそれは現場を目撃した全員が間違い無く、その親子の死を予感した。

それほどまでに完璧、完全に救いなどあり得無い状況だった。


だが、あろうことか半鬼であった雛子は、猛然と突っ込んで来る数トンの鉄の塊を受け止めてしまったのである。

ぶつかった車は、壁に衝突したように、ドライバーもろとも無様にひしゃげてしまった。


「そして、それを見た母さんは悟ったんです。ああ、私は化け物を生んでしまったんだ…って」

「あ…ぁ…そ、そんな……」


喉が空回る。

酷く胸を締め付けられる思いだった。

母親を守った、その行為が雛子を地獄にたたき落としてしまったなんて…。

なんと惨く、救いが無いのだろうか。


「私は……化け物なんです……」

「雛ちゃん……」



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