呪イノ少女、鬼ノ少女
過去ノ残滓
『……って事があったの』

「そう、か」


大和は風呂の中で、携帯片手に深く溜息を吐いた。

濡れた金髪を掻き上げ、風呂の縁に深く凭れかかって、湯気に煙る天井を見上げる。


ここは、麓の宿。

村で起きている事を待機していた上役に報告するために戻って来たのだ。

翌朝には、すぐまた別の場所に向かう為、早めに休もうとした所へ、雛子から電話が掛かって来たのだった。

聞いてみれば、茜と澪が喧嘩をしたのだという。


「茜さんもいい年して。いや、俺のせいか…」


電話の向こうには聞こえないように、小さく洩らす。

澪に雛子を頼んでしまったのは、自分だ。

それが全てでは無いにしろ、自分にも責任の一端はある。


「それで、今二人は?」

『母さんは、居間でビール片手に不貞腐れてる。澪さんは、部屋に引きこもって出て来てくれない』

「不貞腐れてる…か」


あの人らしい、と大和は頬を緩めた。

その調子なら、放っておいても、明日には茜の方から折れるだろう。

何だかんだとふざけて見せていても、彼女は大人だ。

面倒事の片付け方は、心得ている。

大体彼女が本気で怒ったのなら、たとえ澪でも無事ではいられなかったはずだ。

雛子が言う程茜の怒りは、そう深くはないだろう。

……だが、このまま仲を修復した所で、また同じ事が繰り返される可能性は高い。


『……お兄ちゃん』

「ぶっ…!」


思いもよらぬ言葉に携帯を取り落としかけて、手の中で躍らせてしまう。

何とか掴んで、額を一拭き。


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