呪イノ少女、鬼ノ少女
熱くなって来たので、湯から上がって風呂釜の縁に腰を掛けた。
火照った体を、窓から入る夜気をはらんだ風が撫でる。
外は、満月だった。
『もう……切るね』
いくらか迷いを混じらせながら、雛子は別れを告げた。
「あぁ」
檜の壁に背を預け、大和は同意する。
止めは、しない。
雛子は、何も求めて来ないのだから。
もう、兄ではない。
こちらから一々手を差し伸べても、雛子は望まない。
『…………』
けれど、電話は切れなかった。
自分を頼りたいという、彼女の迷いだろうか。
それでも、雛子は決して縋りの言葉を口にはせず、固く沈黙を守った。
何か固い決意を、奥底に秘めて。
だから、せめてその迷い位は受け止めてやろう。
大和は携帯を耳に当てたまま静かに、雛子の息遣いに耳を傾けていた。
『……切るね。遅くにごめんなさい』
「あぁ。また直ぐに帰るからな」
それを最後に、雛子は受話器を置いた。
プツリ、と通信が途絶え、雛子の気配が消える。
無機質な音が、無性に虚しさを掻き立てた。
携帯を握った手をダランと垂らして、湯気に曇る天井を見上げる。
「……雛子、折れるなよ」
*****
火照った体を、窓から入る夜気をはらんだ風が撫でる。
外は、満月だった。
『もう……切るね』
いくらか迷いを混じらせながら、雛子は別れを告げた。
「あぁ」
檜の壁に背を預け、大和は同意する。
止めは、しない。
雛子は、何も求めて来ないのだから。
もう、兄ではない。
こちらから一々手を差し伸べても、雛子は望まない。
『…………』
けれど、電話は切れなかった。
自分を頼りたいという、彼女の迷いだろうか。
それでも、雛子は決して縋りの言葉を口にはせず、固く沈黙を守った。
何か固い決意を、奥底に秘めて。
だから、せめてその迷い位は受け止めてやろう。
大和は携帯を耳に当てたまま静かに、雛子の息遣いに耳を傾けていた。
『……切るね。遅くにごめんなさい』
「あぁ。また直ぐに帰るからな」
それを最後に、雛子は受話器を置いた。
プツリ、と通信が途絶え、雛子の気配が消える。
無機質な音が、無性に虚しさを掻き立てた。
携帯を握った手をダランと垂らして、湯気に曇る天井を見上げる。
「……雛子、折れるなよ」
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