呪イノ少女、鬼ノ少女
熱くなって来たので、湯から上がって風呂釜の縁に腰を掛けた。

火照った体を、窓から入る夜気をはらんだ風が撫でる。

外は、満月だった。


『もう……切るね』


いくらか迷いを混じらせながら、雛子は別れを告げた。


「あぁ」


檜の壁に背を預け、大和は同意する。

止めは、しない。

雛子は、何も求めて来ないのだから。

もう、兄ではない。

こちらから一々手を差し伸べても、雛子は望まない。


『…………』


けれど、電話は切れなかった。

自分を頼りたいという、彼女の迷いだろうか。

それでも、雛子は決して縋りの言葉を口にはせず、固く沈黙を守った。

何か固い決意を、奥底に秘めて。

だから、せめてその迷い位は受け止めてやろう。

大和は携帯を耳に当てたまま静かに、雛子の息遣いに耳を傾けていた。


『……切るね。遅くにごめんなさい』

「あぁ。また直ぐに帰るからな」


それを最後に、雛子は受話器を置いた。

プツリ、と通信が途絶え、雛子の気配が消える。


無機質な音が、無性に虚しさを掻き立てた。

携帯を握った手をダランと垂らして、湯気に曇る天井を見上げる。


「……雛子、折れるなよ」



*****
< 109 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop