呪イノ少女、鬼ノ少女
「ときに、馬鹿娘よ。貴様は何故ここにいる。その有様では我が教えを忘れたようだな」

「状況を読め、彼我の戦力を把握しろ、犬死するな。勿論覚えてる」

「いいや、忘れている。だから、貴様はこの場に来た」


黒丞は冷め切った目で茜を見下ろし、指を二本軽く曲げた。

途端に、


「ぐっ!」

「あ!」


二匹の鬼が茜と雛子をぬかるんだ地面に押さえつけて拘束してしまった。


「ごめんなさいね、茜」

「黙れ、売女が」


背中に乗った四音を精一杯瞳を巡らせて睨み付ける。


「この場にいる者全員の命がこの手の中だ。茜、これでもまだ抗えるのならやってみせろ。犬死にしないというのなら見せてみろ」

「くっ…」

「どうした?我が教えを忘れた訳ではないのだろう。勝利の公算があったからこそ此処に来たのだろう?」


じっと見下ろす片方だけの瞳に、茜は体が竦みそうになる。

あの目は昔から苦手だった。

何を見たのかは知らないが、希望、それも酷く歪んだ性質の悪いものに魅入られている、そんな目だ。


「なぁ、馬鹿娘。鬼になってしまったとはいえ、貴様が可愛い弟子という事に変わりない。ああ、それは昔から変わらん。愛する弟子を少しでも長く生かせてやりたいから、持てる技術の全てを貴様に身に付けさせた」

「知ってるよ。お陰で私は今まで生きてこられた」

「だが、貴様は師の愛を踏み躙ったな」

「生憎、私の愛はもう捧げた人と与えた子がいるの」



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