呪イノ少女、鬼ノ少女
「何をするのかと思えば。貴様は相も変わらず不肖の弟子だな」
「申し訳ありません」
「言うな。謝罪など腹が立つだけだ」
黒丞は苛立たしげに表情を歪ませ、鞘に収めた童子切の切っ先で茜の頭を小突いた。
だが、茜は深く身を伏せたまま硬く微動だにしない。
「俺は貴様等母娘には用はない。師弟の誼で見逃してやると言っている」
「澪ちゃんと九音ちゃんも見逃してください」
「馬鹿娘め。図々しさだけは磨きが掛かったか」
「ぐっ」
頭を小突いていた太刀の先が、肩の抉れた部分を押さえつける。
ブシュと小さな音を上げて、新しく血が零れた。
「聴けよ、茜」
傷口から太刀を退け、黒丞はたった一つ残った、人であった頃の残滓の傍らに膝を下ろした。
「捨て去った我が人生、そこに残ったのは貴様だけだ。大した時間でもなかったが、かといって消してしまおうと思うほど疎んじてはいないのだ」
「師匠、お願いします」
「……馬鹿娘が」
何を言ったところで、茜はこの姿勢を崩さないだろう。
手塩にかけて愛してきた弟子が、どうしてこうも師の言葉を聞かなくなってしまったのか、彼は久方ぶりの後悔を覚えた。
黒丞は雨水を含んだ髪を絞るように握り締めて、残った瞳を閉じた。
「本音を言おう。貴様だけは手に掛けたくない」
「師の愛に感謝します」
「茜よ、太刀を抜かせるな。大人しく娘を連れて消えろ」
「死は覚悟の上です」
「申し訳ありません」
「言うな。謝罪など腹が立つだけだ」
黒丞は苛立たしげに表情を歪ませ、鞘に収めた童子切の切っ先で茜の頭を小突いた。
だが、茜は深く身を伏せたまま硬く微動だにしない。
「俺は貴様等母娘には用はない。師弟の誼で見逃してやると言っている」
「澪ちゃんと九音ちゃんも見逃してください」
「馬鹿娘め。図々しさだけは磨きが掛かったか」
「ぐっ」
頭を小突いていた太刀の先が、肩の抉れた部分を押さえつける。
ブシュと小さな音を上げて、新しく血が零れた。
「聴けよ、茜」
傷口から太刀を退け、黒丞はたった一つ残った、人であった頃の残滓の傍らに膝を下ろした。
「捨て去った我が人生、そこに残ったのは貴様だけだ。大した時間でもなかったが、かといって消してしまおうと思うほど疎んじてはいないのだ」
「師匠、お願いします」
「……馬鹿娘が」
何を言ったところで、茜はこの姿勢を崩さないだろう。
手塩にかけて愛してきた弟子が、どうしてこうも師の言葉を聞かなくなってしまったのか、彼は久方ぶりの後悔を覚えた。
黒丞は雨水を含んだ髪を絞るように握り締めて、残った瞳を閉じた。
「本音を言おう。貴様だけは手に掛けたくない」
「師の愛に感謝します」
「茜よ、太刀を抜かせるな。大人しく娘を連れて消えろ」
「死は覚悟の上です」