呪イノ少女、鬼ノ少女
秘メ事
夜の帳が降りても、昼より降り出した雨はその足を衰えさせはしても、止む気配を一向に見せなかった。

九曜家は重い沈黙が支配し、シトシトと降り続く雨の音がやたらと大きく響いてくる。


薄ぼんやりとした蛍光灯の明りが照らす雛子の自室。

重傷をおった雛子が布団の中で死んだように眠っていた。

その小さな手をずっと握ったまま、澪は都合十度目の深い溜息を吐いた。


「……はぁ」

「ふぅ」


被さって来た溜息は窓際の壁に深く背を預け、先ほどからしきりに天井の木目を眺めている茜のものだった。

大怪我をおった右肩から腕にかけて、大きな三角巾を巻いている。

茜の治療にあたった退魔の医師曰く、腕が落ちてもおかしくない程の大怪我だったらしい。

その他にも全身包帯やらガーゼやらで見ているだけで血の気が引いてくる。


「はぁ」


首にうっすら切り傷をおっただけの澪は、己の無力を嘆くことも出来ない。

みんな命はあったと言えど、九曜親子は致命に近い重傷、九音に至っては今も退魔師達による治療が続いてる。


あまりに世界が違いすぎた。

一週間前までは普通一般の日常を過ごしていた澪は、こんな御伽噺を想像だってしていなかった。

突飛過ぎて、未だに夢ではないかと疑いたくなる。

もはや嘆くどころか、自分の感覚がおかしくなりそうで笑えてしまえそうだった。


だが、笑えない自身がいる。

この手を握った少女は未だ生死の狭間にいるのだ。

ほんの少し傾けば、雛子の命が掌の中から零れていくかもしれない。


途端に怖くなって、ぎゅっと手を握る。

そうして伝わってくる雛子のほのかな体温に、澪は心底安堵するのだった。



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