呪イノ少女、鬼ノ少女
「昔の私たちを覚えてる?」

「ええ」


大和は深く頷いた。


「いい親子だったっすよ。偽物には見えなかった」

「そうね。私はあの子が可愛くて可愛くて仕方なくって、毎日毎日あの子にべったりだった」


その言葉に耳を疑ったのは、澪だった。

嘘だろうと思った。

今の彼女達、特に茜からはとても想像出来ない。


「あはは、そんな顔しないでよー。傷付くなー」

「でも……だ。だったら、どうして?」

「ねえ、雛子の本当の母親のこと知ってる?」


知っている。

九音から聞かされた、雛子の過去。

半鬼であった為に、母親をその手に掛けてしまったという悲しい事実。


「初めて、あの子を見たのは冷たいコンクリートの檻の片隅だった。母親の返り血に汚れたままの姿で、看守たちから乱暴に扱われたせいで私に酷く怯えてたわ」


茜の瞳が雛子の方を向いても、それはどこか遠くに向けられている。

遠い、遠い昔を今目の前に見ているような。


「最初は、この子を九曜の跡継ぎにするつもりで会いに行ったの。私が養父に拾われ、鬼祓として育てられたように。ただ機械的に技を仕込み、九曜を守護することだけをその務めとするように」


あれほど激昂していた大和もいつもの顔付きに戻り、押し黙ったまま茜の言葉に耳を傾けている。


「けどねー、この子を一目見て、あ、無理だなって思った」

「無理?」

「そう、私にはこの子を九曜として育てることは出来ないって思ったの。私ってさ、昔っから自分の感情をコントロール出来ないのよー。だから、雛子を初めて見たときも、こんな子を九曜の道に引きずり込むのは可愛そうだって思ったら、もうダメだった」



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