呪イノ少女、鬼ノ少女
同情の念に駆られた茜は、九曜を引き継がせるという名目で檻の中から雛子を救い出した。

それからこの村に帰って来て、二人だけの家族ごっこを始めたのだった。


「最初は何にも上手くいかなかった。子育てなんて知らないもん。何やっていいか分かんなかったのよねー」


茜は実の親の顔を知らない。

物心付いたときには、この村で養父に拾われて鬼祓として生きていた。

ただ戦闘の技術だけを磨き、先代である四音の警護を日々繰り返し、まともな生活などしたことがなかった。


だから、雛子との生活を始めても、どうしていいか分からなかったのだ。

一般家庭がどういう風なものなのか知らない。

普通の親が子供にどう接するのか知識も経験もない。

故に、失敗ばかりの日々だった。

風呂に入れては泣かせ、食事を作っては怒らせ、仕事で家を留守にしては悲しませた。


「無責任だったのよー。飼えもしない猫を拾ったわけよね」


それでも茜は必死だった。

ただ雛子を不自由なく育てようともがいた。

他人の生んだ子供でも、一度拾ったからには途中で投げるのは嫌だった。


「ねぇ、茜さん。茜さんはどうして頑張ったの?」

「……多分、一人きりになっちゃった子を知ってたから」


雛子に、一人残された哀れな少女を重ねたからかもしれない。

誰に媚びることなく、周囲の庇護を拒み、文字通り一人で育ってしまった九音。

友人に頼まれていたにも関わらず、茜は九音が育っていくのを、ただ離れたところから見ていることしか出来なかった。

そんな彼女の姿が頭にあったせいか、茜は暗中模索を続けた。



「で、挙句……私は失敗した」




< 178 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop