呪イノ少女、鬼ノ少女
「雛子は、一人が怖いのよ」

「怖い?」

「この子、本当に困ったことなんてないのよ」


茜は雛子の手をとって何度も撫でながら、悲しそうに目を細めた。


「九音ちゃんと正反対ね。いつだって誰か守ってくれる人がいたの。私や、私が居ない時は大和や大和のオジサンがいた」

「こいつとは同い年なんですが、お兄ちゃんなんて慕われて。それは随分と甘えさました」


大和はそう言って、長い溜息を吐いた。

深い眠りの中にある雛子は、そんな彼らの苦悩を知ってか知らずか、苦悶に表情を歪める。


「こいつ自身は壁に行き当たった時、一人でなんとかしようとしていたのかもしれません。けれど、俺たちがそれをさせなかった」

「いいえ、させたくなかった。それが母親の責務だって、勘違いしてた」


甘やかされ、一人で足掻くことを知らなければ、どんなものでもそのぬるま湯に浸ってしまう。

誰しも心地良い所からは抜け出しにくいものだ。


「だから、私たちの目の届かないところで壁にぶつかった時、雛子に取り返しのつかない失敗をさせてしまった」

「失敗?」

「親としては情けないけどね、全く気付かなくてさ。この子、中学校に上がったくらいから虐めにあってたみたいなの」


澪はその言葉に胸の奥が疼いた。

昨日の傷ついた雛子の姿が思い出される。


「最初はこの子も、ほら、あんまり不満とか口にしないタチだからさ、我慢してたみたい。でも…あれはこの子が一年の冬だった。私、そのとき仕事で東京の方まで出てたんだけど、警察から電話があってね。何て話だったと思う?」


澪はフルフルと首を振った。


「御宅の娘さんが、同級生五人を半殺しにしちゃいました、だってさ。辺り一面真っ赤な血の海。骨折、裂傷その他もろもろ」


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