呪イノ少女、鬼ノ少女
「はぁ〜〜〜〜」


長い溜息。

疲れ、呆れ、落胆…様々な色の混じった重苦しい溜息だった。


「来なきゃ良かった」


十六年間、当たり前だった父のイメージが音を立てて崩れていく。


真面目で紳士を絵に書いたような父が、裏でこんなことを調べていたなんて。


いや世間にはよく溢れている話だ。

あの人がまさか…なんてのは、メディアでは飽和状態。


どんな人間でも裏の顔を一つや二つ持っていてもおかしくない、それが当たり前の世の中だ。


が、実際自分の身の回り、しかも家族でそんなことが発覚してしまっては「当然」なんて言葉は浮かばない。

「嘘だ」と叫ばずにはいられなかった。


「澪?固まっているけれど、どうしたの?」

「…えと、言葉が見つからないんです」


実の父が、こんな本を熱心に読んでいたなんて、引くなという方が酷であろう。


「こんな山奥で、こんな本の山の中で…あの人は一体何をしてたんですか」


原因不明の怒りが込み上げて来た。

必死の思いをして山を上って、純度百パーセントの変態に襲われかけて、その先にあったものは父の怪しい裏の顔。


生きていたら、襟首を掴んで尋問していたかもしれない。

澪には、父が生きていないことが激しく悔やまれた。



< 36 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop