呪イノ少女、鬼ノ少女
そろそろ降りた方がいい―――あれから、しばらく書斎を漁っていると、九音がそう提案した。


確かに外を見れば、青だった空が、灰色と白が混ざりあった機嫌の悪い色になっていた。

特に見る場所も無くなっていたので、二人で協力して家の戸締まりをしてから外に出る。


「来ない方がよかったかしら?」


山を中ほどまで降りた頃、九音が尋ねてきた。


「はい」


今の天気と同じくらいに澪の表情は鬱屈として冴えない。

年頃の娘には、父の隠れた趣味は少しばかり重すぎたらしい。


「私は来て良かったと思っているわ」


九音は鉛のように冷たく重い空に片目を細めながら、穏やかな表情を作った。


「あなたと会えたから。それは予め決まっていたことだとしても、やっぱり嬉しい事だから」

「九音さん、あなたはどうしてそんなに私を…」


澪は九音の聖女のような微笑みに目を奪われながら、そう零した。


「あなたが……あなただけが私を救う事が出来るから」


九音の指が顎にかかって、クイッと持ち上げられた。

彼女の深い闇色の瞳の中に、戸惑う澪が映り込んだ。


「九音、さん」


この女と目を合わせる度に呼吸が乱れる。

肺がまともに機能しなくなる。


「もう離さないから」



< 37 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop