呪イノ少女、鬼ノ少女
普段なら傍らに文明の利器を傍らに置いているのだが、今回は持って来ていなかった。

まさか本を読むことになるとは思っていなかったから。

おかげで、難読漢字に四苦八苦している。


「これくらい読めなきゃ。高校生でしょう?」

「ぅ…面目次第もないです」


雛子はくすくす笑いながら、本のそばに縦長のグラスに入ったオレンジジュースを置いた。

オレンジ色の中に浮いている氷が、カラン…と涼しい音を上げる。


読書に没頭していた澪に、息抜きをしてもらおうと思ったらしい。


よく気の利く娘である。


「ありがと」

「いえいえ。どういたしまして、お客様」


澪はグラスに口をつけて、一口含む。


「それで、何読んでたんです?」


お盆を胸に抱きながら、澪の後から本を覗き込んだ。


「…っ」


不意に。

顔にかかった雛子の髪からドロリと甘い香りがしたような気がして、軽い目眩に襲われた。


「ああ、お父さんの」

「え…あ、うん…お父さんの集めてた本の一冊。でもよく分かんないや。こんな本…お父さんは何に使ったのかな」


一瞬、雛子からした香りに頭が惚けていた。

いけない、と大きくかぶりを振って、澪は誤魔化すように「あはは」と笑った。


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