呪イノ少女、鬼ノ少女
「じゃあ、行きましょうか」

「はい?」



昼下がりの九曜家の玄関で。

澪は至極冷静に、まるでどこぞの刑事の様にそう問い返していた。


何のことはない。

あまりに理解不能な状況に、澪の思考が追いつかなかったため、取り乱す処か、一周回って冷静になったに過ぎ無い。


「行くでしょう?まさか、行かないなんて言わないわよね?まあ、言っても認めないけれど…。で、行くの?行かないの?」


そう何度も尋ねて来る相手は、澪の手を掴んだまま、実に楽しそうにしている。

それはもう、今にも踊りだしそうなくらいに。


そして、背後では。


「いってらっしゃーい」


とにこやかに手を振る茜と、


「今度は何のつもりですかっ」


と怒り狂い犬歯を剥き出しにした雛子が唸っていた。


もう、澪には全く理解出来ない状況だった。

起こった事は至極単純明解なのだが、それだけに相手の意図が読めない。


実は、昼食が終わって、しばらくしてから九音が何の前触れも無く訪ねて来たのだ。

それで、いきなり「行こう」と、澪の意思なんて無視しまくって腕を引っ張っているのである。


「取り敢えず、何処に行くのか教えて下さい」


澪は九音に腕を離させて、溜め息混じりに尋ねた。

行かないと言っても無駄なのは分かったから、取り敢えず行き先だけは聞いておきたかったのだ。
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