雨の巫女は龍王の初恋に舞う
 いまさらながら、それが後宮という場所の役割だと痛いほどに認識して、璃鈴は言葉を詰まらせる。

 その璃鈴の腰を抱き寄せて、龍宗はすべらかな頬を片手で包んだ。

「化粧などしなくても、お前は十分美しいぞ」

「……気づいていらしたのですか?」

「もちろん」

(だったらさっき何とか言ってくれてもよかったのに)

 ぷ、と頬を膨らませた璃鈴に、龍宗は笑う。


「璃鈴。妬いてくれたか?」

「妬いて……とは?」

 意味がわからず、璃鈴はきょとんとする。龍宗は、先ほどまでの荒ぶる感情が嘘のように凪いでいるのを感じた。見上げてくる澄んだ瞳が、こんなにも愛おしい。

 くるくると変わるその表情こそ、化粧よりもよほど璃鈴の美しさを際立たせる。
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