雨の巫女は龍王の初恋に舞う
 ここに来るまでの三日間で宿をとった町は、昼でも簡単に外出できるような安全な場所ではなかった。けれど飛燕は、どうしてもこの状況を皇后となる女性に知っていてほしかった。

 神族の娘が村を出ることは、ほとんどない。祈りの巫女として清い心身と血脈を保つために必要な措置だ。ただの巫女ならばそれでよいのだが、国の皇后となるには、そして皇帝の支えとなるためには、それだけでは不十分だ。


 つくづく、自分がくると言ってきかなかった龍宗を置いてきてよかったと飛燕は思う。きっと彼は、彼女にこの現状を見せるようなことはしなかっただろう。

(皇后としてこの娘……悪くない)

 飛燕は、無意識のうちに笑みを浮かべる。そして一気に茶碗を空にすると、立ち上がった。

「さあ、そろそろ夕餉の時間です。私たちも宿に戻りましょう」

「はい」



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