雨の巫女は龍王の初恋に舞う
「無理しないでね。そんな時に届けてくれてありがとう。それで、秋華は?」

「さ、さあ。私はこれを皇后様に届けてほしいと言われただけなので……」

 それだけ言うと夏花は、ぺこりと頭をさげて急ぎ足で去っていった。その様子に気をつけて、と言う間もなく、廊下の角で夏花は転びそうになってあわてて姿勢を正す。

 働き者でいい子なのだが、少しあわてんぼうなのが玉に瑕だ。本人もそれをよくわかっていて、璃鈴たちをよく笑わせてくれる。その夏花が疲れている様子だと、璃鈴も心配になる。

(あとで秋華に様子を聞いてみよう)


 扉を閉めた璃鈴は、戸棚にしまう前に夏花の持ってきた缶を開けてみた。まだ若い緑の香りがふわりと立ち上る。

「……龍宗様に、気に入っていただけるといいのだけれど」

 璃鈴は、ふたを戻すと茶器の隣にそれを置いて戸棚を閉めた。

 だが、夕餉の時間を過ぎても、秋華はもどってこなかった。

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