雨の巫女は龍王の初恋に舞う
「どうしたのかしら」

 他の女官に聞いてもわからない、とのことで、璃鈴は気をもんでいた。かた、と扉の開く音に璃鈴が振り向く。

「秋華?」


 だが、そこにいたのは龍宗だった。龍宗も、璃鈴の呼びかけに面食らったようだ。

「龍宗様! す、すみません。つい秋華かと……」

「あの女官は不在か?」

「はい。夕方から姿が見えなくて……」

 長椅子に腰掛ける龍宗に、璃鈴はいつものようにお茶を入れる。


「今日はお早いのですね」

「ああ。件の女官から、今日は話があるから夕餉の後にくるように、と伝言をもらったのだ」

「秋華が、ですか?」

「実際に来たのは他の女官だったから本人ではなかったがな。お前がなにか用があるのかと思ったのだが」

 尋ねた龍宗に、璃鈴は首を振る。

「いいえ、私は何も……もしかしたら、これかもしれません」

 璃鈴は、夏花が持ってきたお茶の缶を見せた。
< 234 / 313 >

この作品をシェア

pagetop