雨の巫女は龍王の初恋に舞う
「頃合いだな」

「え?」

「いや、こちらの話だ。お前を妻に選んだ理由……婚儀の夜に、確か話したな」

「ええと……名を覚えていたのが、私だけだったから、と」

「それは、嘘だ」

「嘘? では、他にも名を覚えていた巫女がいるのですか?」

「そうではない」

 雨音が響く薄闇に、ひっそりとした龍宗の声が響く。



「璃鈴」

「はい」

「初めてお前を見た時から……俺の心はずっとお前に囚われていた」

 驚いて、璃鈴は龍宗の顔を見あげる。暗闇の中でも、間近にある龍宗の顔が見て取れた。
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