雨の巫女は龍王の初恋に舞う
 龍宗も、父から聞いた時はまさかと思った。まるでおとぎ話のようだと。皇帝の証として伝承された舞も、ただの儀式的なものだろうとしか思っていなかった。

 けれど、雨に溶けそうになる璃鈴の儚い姿に、全身が引き寄せられるような引力を感じた。その流れに逆らうことなく身を任せれば、二人の力が混ざり合ってさらに強力な力へと育ちそれが天に昇っていく実感を持つことができた。

「私たち、本当にこの国を守れるのですね」

 璃鈴の脳裏に、黎安へ来るまでの道中で目にした街の姿が目に浮かぶ。

 あの時の璃鈴には、まだ彼らを救う力がなかった。疲れ果てた人々を見ても、手を差し伸べることができなかった。

 だが、今なら。きっと今なら、天の力を借りて大地に恵みをもたらせる。それが、璃鈴には嬉しかった。
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