雨の巫女は龍王の初恋に舞う
「ううん、いいの。忘れてちょうだい」

「かしこまりました。では、私はとなりの部屋におりますから、何かありましたらお呼びください」

 おやすみなさいませ、と秋華は言って璃鈴の部屋から出て行った。

 璃鈴は、大きくため息をついて窓をあけた。春先の、まだ冷たい夜気が忍び込んでくる。



 黎安はさすが首都だけあって、璃鈴が今まで見てきた街とはまったく様子が違った。

 夜だというのに、馬車が何台もすれ違えそうな大きな通りはいまだに人通りが絶えない。通り沿いの商店はまだ開いているところも多く、二階から見下ろす璃鈴の耳には、人々の喧騒がにぎやかに聞こえた。



「本当に、人が多いのね」

 独り言をつぶやいて、璃鈴は窓にもたれて人通りを眺めていた。

 その時だった。


 多くの行き交う人々の中に、一人だけ。
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