雨の巫女は龍王の初恋に舞う
自分を見上げている男性がいることに気づいて、璃鈴は、は、と息を飲む。
 闇の中に溶けるような黒い服を着た男性だった。薄暗く顔ははっきりとは見えなかったが、強烈な視線が自分に向けられていることを、璃鈴ははっきりと感じた。

 見えない視線が、璃鈴の視線をとらえる。息をすることすらも忘れて、璃鈴はその視線を受けとめた。
 時間にすれば、ほんのわずかな時間だっただろう。ふい、と視線を外した男性は、もう振り返ることなく人ごみにまぎれて消えていった。

(今のは……)
 いつの間にか握りしめていた璃鈴の手は、ぐっしょりと汗で濡れていた。
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