雨の巫女は龍王の初恋に舞う
 璃鈴は知らなかったが、彼らにとって神族とは伝説上の一族に過ぎない。神族の村にひっそりと住み、他の街の人間とはほとんど交流を持たずに暮らしている。宮廷のほとんどの者にとっては、実際に見たことのある神族と言えば前皇后のみ。その前皇后でさえ、後宮に入ってしまった後は見たものはほとんどいない。

 皇帝とて龍の血を継ぐ、という伝説の持ち主なのだが、実際に龍がいたなどと信じる者はいない。だから、神族の娘というだけで、璃鈴はもの珍しさの対象なのだ。

 あつらえたばかりの薄い布で作られた璃鈴の婚礼衣装は、彼女が歩くたびにひらひらとその後に続く。うつむいて足元だけを見ていた璃鈴は、余揮について部屋を横切るうちに、それまで見えていた人々の足が見えなくなったことに気づいた。目の前にいた余揮が振り向くと、璃鈴の耳元で囁く。


「皇帝陛下にあらせられます」

 そうしてうつむいたままの璃鈴の足を止めると、自分は背後に下がっていった。薄い衣の向こうに、近づく人影を感じて璃鈴はさらに緊張する。近づいてきた人影は、璃鈴の目の前でとまった。
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