雨の巫女は龍王の初恋に舞う
 不安げな様子で顔をあげた秋華に、冬梅は少しだけ、笑みをこぼした。


「その様子を見れば、あなたを璃鈴様のお供に選ばれた長老の判断は、おそらく間違ってはいないのでしょう」

「……私の、何を選ばれたのでしょう」

「そのように葛藤するところではないですか? 皇后は、良いご友人を持たれた」

 それだけ言うと冬梅はまた無表情に戻って、口を閉ざしてしまった。秋華も自分の思いに沈んで、それ以上は何も言わなかった。


  ☆


 まだ日も差さない薄闇の中で、璃鈴は神楽に座っていた。朝凪に静まる大気の中で、じ、とその時を待っている。

 その神楽は、広い池の真ん中に張り出す形で作られていた。四方を白い布で囲われた広めの床に、ふいに、光がさす。閉じた瞼にその光を感じて、璃鈴は目をあけるとゆっくりと顔をあげた。その姿が、みるみるうちに日の光に包まれていく。
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