冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
固い表情だけれど、怒っている程ではないように見えた。
奈月は小さく頷いた。

「こんなところで何をしていた? 今は普通の体ではないと分かっていないのか?」

「あの、少し散歩をと思って」

奈月は戸惑いながら頭を下げた。

「散歩をするのは自由だが、誰かに声をかけてからにしろ」

「そうですね、気が利かなくてごめんなさい」

もう日が沈み辺りは薄暗闇に包まれていた。

気まずい空気が流れていたが、なんとなく揃って歩きだす。

当然のように会話は無い。けれど奈月の心は揺れていた。

(和泉と並んで歩くなんていつぶりだろう)

以前は数歩歩くと和泉の大きな手が奈月の手を包んでいた。

(彼と手を繋いで歩くのが好きだったな……)

あんな風に温かい手に包まれ幸福を覚えながら寄り添うことはもう二度とないのだろうけれど。
虚しさが襲い歩みが止まる。

「どうした?」

和泉がすぐに気付き立ち止まる。

奈月を気遣うようなその態度が意外だった。

「いえ、ぼんやりしちゃって」

「それならいいが」

(機嫌が悪かったんじゃなかったのかな?)

亜貴と言い争っているときはイライラした声音だった。
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