冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
(どちらにしても嬉しくない反応だよね)

考えれば考える程気分が沈む。母親になるのにこんなことでは駄目だと分かっているけれど、今日はやけに和泉との関係について悩んでしまう。

きっと彼が予想外な行動に出たからだ。一切期待出来ない状況よりも、どこか希望を持ってしまう何かがある方が、心が揺らぐのだと気がついた。

(和泉の態度が少し変わった気がするから、どこかで期待しちゃってるんだ)

また仲良くなれるのではないかと。そんな都合のよい話がある訳ないのに。


気持ちは沈んでいるものの、妊娠の経過はかなり順調だった。

(よかった。無事に育ってくれていて)

ほっとした気持ちで和泉が待つ駐車場へ向かう。

彼は運転席で誰かと電話をしているところだった。楽しい会話なのか笑顔を浮かべていて、奈月の胸はどきりとした。

(和泉のあんな笑顔、久しぶりに見た)

思い返してみれば、奈月が司波家に入ってから今日まで彼が笑っているのを見た覚えがない。

たいてい無表情が顔をしかめているかで、とにかく近寄りがたかった。

けれど本来の彼は優しく、よく笑う人だったのだ。ただ奈月の前で不快以外の感情を出さなくなっただけで。
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