冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
それでも奈月にとってはこの狭い部屋だけがこの家の中で唯一心を休ませられる場所だった。

ずっと自室で過ごしていたけれど、帰宅後は欠かせない義務がある為、仕方なく自室を出た。


奈月の部屋から離れた屋敷の中心。

二十畳程の居間は楽しそうな笑い声で溢れていた。淹れたてのコーヒーの良い香りが漂うそこには温かな家族の団らんの光景があった。

しかし奈月が入室するとぴたりと笑い声が消え、代わりに冷え冷えした空気が漂い始める。

「ただいま帰りました」

「……あら奈月さん、お帰りなさい」

ブラウンの革張りソファーにゆったりと座っていた女性が答えた。

続いて白髪交じりで痩せ型の男性と、奈月と同年代の女性が視線を向けて来る。

この三人が今の奈月の家族。

男性の名前は和倉豊。奈月の叔父で、祖父から継いだ和倉百貨店の社長を務めている。常に不機嫌そうに眉をひそめており近寄りがたい印象があるが、家族の前でだけは笑みを見せる。

その隣に座る奈月に声をかけて来た女性が和倉豊の妻の和倉忍。四十を幾つか過ぎているはずだが、そうは見えない程若々しい容姿を保っている。誰が見ても美人と言う整った顔立の華やかな女性だ。
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