冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~

「深雪さん、奈月を見舞って下さりありがとうございます。どうぞ座って寛いでください」

深雪は「ありがとうございます」と礼をしながら腰を下ろしたけれど、未だ落ち着かない様子だ。
司波家は広川堂の一番の上客だからどうしても緊張するのだろう。慣れるまでにもう少し時間が必要だ。

「奈月、今日も来たわよ」

今度は亜貴が顔を見せた。仕事中抜け出して来たのか、かっちりしたスーツ姿だ。
亜貴は慣れた様子で春花のベビーベッドに近付こうとしたが、深雪に気付き美しい笑みを浮かべた。

「お客様がいらっしゃっていたんですね。失礼しました。私は奈月の義姉で司波亜貴と申します」

「あ、あの、奈月さんの同僚の北沢深雪です」

再び深雪の珍しく緊張を含んだ挨拶が始まる。けれど同性同年代だったためか亜貴とは気安くなったようだ。

穏やかだけれど楽しい時間が過ぎていく。そのとき突然赤ちゃんの甲高い泣き声がした。

「春花!」

和泉がすぐに様子を見に行く。そっと抱き上げてあやしていたが直ぐに奈月の元にやって来た。

「お腹が空いたのかもしれない」

「そろそろ時間だものね。おいで春花」

和泉から小さな春花を引き受ける。小さな娘を胸に抱くとじんわりとした温かさが心を満たした。

「幸せ……」

「え?」

和泉が「どうしたんだ?」とでも言うように視線を向けて来る。春花が泣いているのに慌てているのか少し焦った顔をしている。

「幸せだなって思って」

和泉は少し驚いた表情を浮かべ、それから輝くような笑顔を浮かべた。

「俺の方が幸せだ」

「私の方が……」

「いや、俺だ」

幸せ勝負のような状況になっていると、深雪と亜貴が呆れたように割り込んで来た。

「のろけてないで早く春花の世話をしなさい」

「あ、はい。ごめんね春花」



大好きな家族と友人に囲まれ、胸の中は希望に溢れている。

数ヶ月前までは想像も出来なかった幸福。

だけどこれは現実だ。光が溢れる病室は優しさで溢れていた。


END
















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