冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~

地中海クルーズに旅立つ叔父家族を見送った奈月は、ひとりきりで新年を迎えた。

寂しく感じるけれど、叔父家族と過ごすよりは気楽で快適な時間だった。

ひとりで初詣に行ったり、普段は作らない凝った料理に挑戦したりと、割と充実した休日を過ごし、三日からは広川堂での勤務が始まった。

「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」

広川堂の従業員同士で恒例の新年の挨拶を交わしてから、接客に入った。

世間はまだ冬休みの時期なのためか、カジュアルな服装の人の姿が目立つ。

店頭には深雪とアルバイトのスタッフが出ているので、奈月は奥のギャラリーで翌週から展示する器の確認をしていた。

今回の展示品は先日広川が足を運んだ工房の作家の作品だ。

初めての作家のものだけれど、素朴なフォルムが奈月の好みだった。自分用にも一つ欲しいななどと考えていると、背後から呼びかけられた。

「奈月さん」

低く滑らかな男性の声にどきりとする。

(この声は……もしかして)

ひとりの人物を脳裏に浮かべながら振り返る。

「和泉さま」

予想していた相手なのに、心臓がどきどきと鼓動を打つ。

彼とはひと月と少しぶりの再会だ。今日の和泉は先日のようなスーツ姿ではなく私服姿。髪は自然に流しており額が見える。
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